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IPPUDO STORY

2021年6月21日

一風堂のある暮らし
第1話 「辛もやしと、愛情。」

変わらない美味しさを

どんな日も寄り添い届けたい。

 

生きていれば

笑う日も、泣きたい日も

いろんな毎日が続いていくから

その日々の中に一風堂があったら

とても嬉しいです。

 

そんな何気ない日常を切り取った

誰かさんの「一風堂のある暮らし」

第1話「辛もやしと、愛情。」

やってきたのは、久しぶりに感じる。

大学生になって札幌を出てからだから、4年ぶりかな。

鼻をかすめる懐かしい香りを感じながら、ゆっくりと扉をくぐった。

 

幼い頃、お出かけの定番は「一風堂」だった。

忙しい父と専業主婦の母がいる我が家では、外食というのはとびきり特別な出来事。お気に入りのスカートと赤いポシェットをぶら下げて、大きい父の手を握りながら店内に入ると、祭りのような賑やかさがそこにあったのをおぼろげに覚えている。

 

父はいつも「特製赤丸」に机に備え付けられた「辛もやし」と「高菜」をこれでもかとたっぷり載せて食べていた。母は「野菜白丸」に「紅生姜」とやっぱり「辛もやし」。母が頼んでくれた「白丸元味」と真っ白なもやしを食べながら、赤いそれがなんだか大人の証のように見えて憧れていた。

 

「特製赤丸でーす!」

威勢の良い声と共に、あの頃の思い出が蘇る。

食べ慣れた白いもやしを探すけれど、机にあるのは「辛もやし」だけ。

「すみません。白いもやしってありますか?」

「白いもやしですね。そちらは有料のトッピングになるんですよ。ご注文されますか?」

あの頃は知らなかったことが、また一つ。

 

二人が食べていた、赤いそれを初めて頬張る。「辛もやし」って想像していたより意外と辛くてクセになる。こんな味だったのか、と二人のあの時の姿を思い出す。当時二人は今の自分とちょうど同じくらいの年齢だったかな。年齢を重ねるにつれ、すごく大きく遠い大人のように感じていた両親の隠れた背伸びや愛情が見えるようになった。

 

「今日は実家に寄って行こうかな。」

たまたま出張で帰ってきた札幌。正月以来、顔を合わせていない二人は元気でやっているかな。計画にはなかったけれど、たまには良いかもしれない。まろやかなスープをすすりながら、出迎える二人の顔を想像して頬が緩んだ。