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IPPUDO STORY

2021年6月25日

一風堂のある暮らし
第2話 「ポテサラが、好きなひと。」

変わらない美味しさを

どんな日も寄り添い届けたい。

 

生きていれば

笑う日も、泣きたい日も

いろんな毎日が続いていくから

その日々の中に一風堂があったら

とても嬉しいです。

 

そんな何気ない日常を切り取った

誰かさんの「一風堂のある暮らし」

第2話「ポテサラが、好きなひと。」

「お疲れ様でした〜!」

仕事終わりの夕暮れ時、バイト先の先輩達に別れを告げて重い足をゆっくりと進める。お腹がすいた。お腹と背中がくっつくとはまさに今の私のことを言うだろう。自宅の空っぽの冷蔵庫を思い浮かべながら、今日の夕飯は何にしようかと思考を巡らせていると、目の前に懐かしい看板を見つけた。

「一風堂だ…」

高校生の頃、毎週のように通っていた一風堂。しばらく足が遠のいていたけれど、久しぶりに行ってみようかな。少し軽くなった足で、扉をくぐった。

 

しばらく通っていなかった原因は“はるき”である。彼はいわゆる“元カレ”。

高校1年生の夏。放課後デートの最終目的地はいつも一風堂だった。元々幼馴染で、一緒にいることが多かった私たちは、中学生の頃から一風堂の常連で、付き合い始めてからもそれは変わらなかった。

 

“はるき”は一風堂の「ポテサラ」が大好きで、「黒胡椒が決め手なんだ」とよく言っていて、テーブルにある黒胡椒を「追い胡椒」とふんだんにまぶしていた。いつも半分こしようとするのを、太るからと断っていたのを思い出す。なぜラーメン屋さんに来てまで「ポテトサラダ」を頼むのか、当時の私は理解できなかったけれど、とにかく美味しそうな顔で頬張っていたのが印象に残っている。

 

突然の別れによって彼との関係は変わってしまい、それ以来会う頻度は極端に減った。大学生になる頃には自然と連絡を取ることもなくなっていた。一度だけ、可愛らしい彼女風の子を連れて、ポテサラを半分こしている彼の背中を見かけたきり、思い出のこの場所から私の足は遠ざかってしまった。

 

「お待たせしました!野菜赤丸とポテサラです!」

懐かしい匂いにこたえるように、お腹がグーっと鳴った。上にのった辛味噌をスープに溶かしながら、麺をすする。そうそう、この味!とんこつのまろやかさの中にあるコクとピリッとした辛みがほどよい。ポテサラを頬張ると粗挽き胡椒が香ばしく香った。添えられた半熟の味付け卵の黄身をこぼさないようにそっと口に入れる。想像の何倍も美味しくて、感動すら覚える。あの時、私も一緒にポテサラを食べていたら、未来は違ったのかな。

その瞬間、入り口のドアがガラッと開いた。