SPECIAL特 集
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IPPUDO STORY
2021年6月25日
一風堂のある暮らし第3話 「チャーハンと、勇気。」
変わらない美味しさを
どんな日も寄り添い届けたい。
生きていれば
笑う日も、泣きたい日も
いろんな毎日が続いていくから
その日々の中に一風堂があったら
とても嬉しいです。
そんな何気ない日常を切り取った
誰かさんの「一風堂のある暮らし」
第3話「チャーハンと、勇気。」
街灯に照らされ、夏の香りがする試合の帰り道。
汗ばみ体に張りつくユニフォームをバフバフと揺らし風を起こしながら、
馴染みのラーメン屋に入った。
「おー、お疲れ」
大テーブルの一番奥。いつもの定位置にメニュー表をパラパラとめくる“りょう”がいた。
「遅くなったわりぃ。もう頼んだ?」
「まだ。一緒に頼もうと思って。いつものでいい?」
俺が頷くと“りょう”は「赤丸新味を半チャーハンセットで2つ」と厨房の店員さんに注文した。テーブルのルイボスティーをカップに注ぎ、一気に喉に流し込む。汗ばんだ体に心地良い冷たさが喉の奥を通った。
「今日の試合はどうだった?」
頬杖をつきながら、“りょう”が尋ねた。
「負けた」
「そっか」
真っ直ぐな目でそう言うと、そういえば今日さーと“りょう”は別の話を始めた。“りょう”が部活のことを突っ込んで聞いてくることはない。だから俺も聞かれない限りは話さないようにしていた。
「赤丸新味と半チャーハンセットでーす!」
“りょう”は、だらっとしたパーカーの裾をまくってチャーハンを頬張り、うめぇと呟いた。一風堂のチャーハンは俺ら2人の大好物だった。母さんには申し訳ないけど、旨みが詰まったチャーシューが入り、香ばしい風味の本格的なチャーハンが、どこのご飯よりも好きだった。「週1は食べないと無理」と言う“りょう”に便乗して、こうやって部活終わりに一風堂に集合するのが、いつからか習慣になっていた。
美味しそうにチャーハンを頬張り、スープをすする“りょう”を見つめながら、俺は意を決して、口を開いた。
「りょうはさ、もうバット握んないの?」
“りょう”の手が止まる。冷房の風が当たり、傷んだ茶髪の髪がサラサラとなびいている。全中のあの決勝以来、バットを握ることをやめた“りょう”の背中を俺はただ見つめることしかできなかった。手をつかんで引き止めることも、怒って突き放すことも何もできなかった。何もしてやれなかった。でも、もう後悔したくない。当たり障りなく話すことも、傷を見て見ぬフリすることも、もうやめにする。
「俺、もう一回お前と試合出たい」
再び汗ばみだした手を握りしめ、ゆっくりと上がる“りょう”の顔を見つめた。